2007年9月7日金曜日

暴力のすえにあるもの

またかなりご無沙汰してしまいました。3週間、休みも週末もなしでした。。。さすがにちょっと疲れています。

今回は、とても辛い経験をされたひとのお話です。
パキスタンでは暴力がとても多いそうです。しかも、非常にシビアな形で出てくるようです。「名誉殺人」という言葉を聴いたことがある人もいらっしゃるかもしれません。名誉殺人というのは、女性が、「家族の名誉を汚した」という理由で殺されるということです。「名誉を汚した」行為というのは、例えば、親の決めた相手とではなく好きな男性と結婚したいといって駆け落ちするとか、不純な関係を結んだとか。私には、殺される理由としては到底理解できないものでした。でも、家族(主に男性)がこういった理由で名誉殺人を犯しても、ほとんどが逮捕されないどころか、社会はそれをむしろ容認しているようです。

私がイスラマバードの女性支援センターで出会った女性は、真っ黒のベールを頭からすっぽりかぶり、目の下もベールで覆い、そしてサングラスをかけていました。横には小さな男の子が寄り添っていました。彼女は、20歳代前半で結婚、3人の子を産みましたが、夫が働かず、暴力も振るわれていました。もう離婚するしかないと決心したものの、なかなか同意してもらえず、離婚のためにお金をせびられたそうです。必死にお金をかき集めても、まだ要求された金額をわたせずにいたところ、元夫が子どもに会いに訪れ、一晩とまっていった夜、事件はおきました。すでに寝入っていたところを、何かの液体をかけられ、焼けるような激痛に目を覚ましました。でも、真っ暗で何も見えず、自分の体が焼け爛れていることが、触ってやっと分かったそうです。彼女は、元夫から硫酸をかけられたのです。近所の人に助けを求め、病院で治療を受けましたが、今も彼女の右目は全く見えず、左目は影が動く程度なら分かるくらいでしかありません。最後にベールをはずして見せてくれましたが、両目はほとんど真っ白で、また耳も一部がとけてなくなっていました。鼻もつぶれ、首から胸、腕にかけて皮膚がただれていました。今も、硫酸が目に残っているそうで、まだ目が痛くてしょうがないと彼女は言っていました。そして、胸につきささった彼女の言葉は、「生き延びたけれど、いっそのこと殺してくれれば良かったのに」。。。

隣に寄り添っていた2番目の息子で12歳の男の子(12歳とは思えないほど小さかったです)が、彼女の手をひき、病院にいくにも買い物にいくにもついてきてくれると、唯一の救いのように彼女は語っていました。でも、彼の目は悲しみと怒りでいっぱい。いつか父に同じことを仕返ししてやりたい、と。

こんなひどい話ですが、少しだけ希望がもてたのは、彼女が「殺してくれれば・・・」と言いながらも、強い意志をもって生きようとしていたことでした。やはり子どもがいて、支えとなる人がいると強くなれるのでしょうか。

彼女たちの話を私は今でもどうとらえていいかわからないでいます。この話がされていたとき、私は通訳としてそこにいました。だから、悲しみや辛さで、言葉をつまらせるわけにはいかず、感情の弁を閉ざした状態で立っていました。でも、感じていたものはあったんだと思います。それがずっと今も身体の中をぐるぐるしている感じがします。
具体的に彼女のケースに対して、世界中で起こっている暴力に対して、どうすべきかはよく分からないけれど、できることは、自分の周りにある暴力の連鎖を断ち切ること、連鎖を起こさないこと。よく、「知る」ことが重要、と言われます。知ったからってどうなるの?って思うこともあるのですが、知っていたら、彼女の思いに共感した瞬間を覚えていたら、自分や友だちが暴力を受けたり、逆に暴力(身体的だけじゃなく、言葉でも)を振るう側になったりしたときに、間違ってるって言ったり、思ったりするきっかけになると思うのです。日本でもDVがエスカレートして殺人に至ることがありますし、自分の身の回りで、できることもある。
それから、暴力を撲滅しようと努力している人たちもいるということ知っておくこと。緊急支援ほど注目を浴びませんが、UNFPAやいくつもの現地NGOは地道に啓発活動を続け、暴力を受けた人たちの救出に力を尽くしています。そういったところに日本のODAが使われるのは、いいことだなと思います。

暴力が思いのたけをぶちまける手段にならないことを祈って。

5 件のコメント:

panda さんのコメント...

 マコ様 大変辛い通訳の役目お疲れ様でした。
 パキスタンのみならず、「焼かれた花嫁」、「生きながら火に焼かれて」など信じられない現実があります。
 先の震災体験と同様、日本の私は何も出来ない現実。マコ様が言うとおり、知ることは大事です。
 こういった関係だけでなく、いろんな媒体伝達方法を使って、世界が目を向けなくてはいけない現実でしょう。
 彼女が生きて幸いなのは、すぐ傍に子供達が居てくれること、そしてマコ様が話を通訳して広めて下さったこと。

マコ さんのコメント...

pandaさん、温かいお言葉をありがとうございました。日々小さなことで悩んでいたりしても、それとは比べ物にならないほど世界ではひどいことが本当にたくさん起こっているんですよね。自分ができることってほとんどないけれど、何かできるようになったときに、いろんな人の想いに共感できるよう、心のすみに留めておきたいなと思います。あとは、いつか何かで力を発揮できるように自分の能力をあげていきたいな、と。希望的観測ですが、でも、pandaさんの言葉でまたがんばろうと思いました。

みほ さんのコメント...

身体的・言葉による暴力でおかしくなっていく人たちはほんとに多いですね。私も悩んだ末にぼろぼろになったお母さんたちをみています。信じられないことがたくさん世界中でおきていることをやっぱり知るべきですよね。当たり前にやっているその人たちも普通ではないですものね。なんだかきっと私がその場にいてもかける言葉もみつからないだろうな。その女性のこどもの未来にはそんなことがなくなってればいいですね。

mother さんのコメント...

こういったことが現在でも行われているなんて、とても理解できませんが、恵まれた環境の先進国に住むものの役割として、何かできることをしたいと心から思います。
そしてこの場をかりてみなさまにご報告させてください。
ミッチさんナビゲーションによる第一回目の掲載が遅れていて大変申し訳ございません。現在制作中なのですが、少々難航しており、どうぞもうしばらくお待ちください。掲載次第、ご連絡いたします!

マコ さんのコメント...

そもそも、人生の歩みを途中で誰かに止められることの理由なんて、理解しようがないことなのかもしれません。安心して生きる権利は普遍的なもののはずですものね。
外から押し付けるのではなく、人の権利が活かされるように積極的に国際的な政策の動きも見守っていけるといいですね。